FLIX 2003年 3月号



2002年のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したロマン・ポランスキー監督の『戦場のピアニスト』 は、第二次大戦中のポーランドで、ナチスの迫害に耐え抜いた実在のピアニスト、ウワディスワフ・ シュピルマンの物語。『シン・レッド・ライン』や『ブレッド&ローズ』など、社会派への作品への出演が 多いエイドリアン・ブロディにとって、初の本格的主演作となった。 東京国際映画祭のために来日したブロディは、連日の取材に少々お疲れ気味の様子。一度見たら 忘れられない起伏に富んだ顔にはあまり生気がなく、心配になったが、ポツリポツリと話し始めるうち にエンジンがかかり、丁寧に質問に答えていった。

「ロマンにとって、一番パーソナルな作品になっていると思う」
と語る。

「彼という存在を通して、人生について、世の中にある様々な苦しみに付いて学ぶ事ができた。ロマン とは本当に親しくなれた。彼のことを心から尊敬しているよ。彼も僕のことを尊重し、励ましてくれたんだ」


撮影は1日12〜17時間、週6日。このペースが半年間続いたという。

「その間、ほとんど共演者なしで1人きりの撮影だったので、一瞬たりとも役から離れることができな かった。心理的な影響はとても大きかったと思う。今日はラブシーン、明日はカーチェイスっていうよう に変化があるわけでもなかったから、大きな試練だったし、アンハッピーと言ってもいいくらいの経験 でもあった。でも、そこまで役になりきったことは、僕にとって、特別なものになったんだ」


過酷な心理状態に追い込まれ、セットから出ても気が休まらなかったのでは?と聞くと、
「役と深くつ ながっている事を強調したいがために“役から抜け切れない”と言う俳優もいるけれど、俳優であれ ば、その役を“置いてくる”ってことは必ずできる」
と答えた。

「だって、他人になりかわるなんてことは不可能だよ。演じる役の性質を日常まで引きずるってことも 多少はあるだろうけど」


幼い頃から演じてきたキャリアの持ち主らしい考え方だ。それでも、シュピルマンを演じたことで、彼 は「自分が変わった」と認める。

「自分が変わるという経験をできたことに感謝したい。この役を演じたことは、リアルな人生経験に なったんだ。もちろん、それは作られたもの――フィクションではある。でも、経験したことで僕の見識 は変わった」


事前のリサーチも膨大だった。

「いろいろ要求される役だったからね。シュピルマンの書いた手記を読み、当時のドキュメンタリー映 画を観て、ロマン自身が当時の思い出を綴ったものも読んだ。台詞は英語だったけど、独特のアクセ ントがあるので、それも身につけなければならなかったし、ショパンを弾くために、もちろんピアノも練 習した。ピアノは触ったことがある程度で、クラシックのレッスンを受けたことはなかったから、これも 大変だったね」


内面だけでなく、6週間で16キロ減量という外見上の役作りも行った。

「実は、この映画の撮影は、物語の時系列とは逆進行で行われたんだ。つまり、後半のパートを先に 撮影した。まず、食べ物がなくてやせ細っている状態から撮影が始まったので、その間に少しずつ戻 していって、前半を獲る段階になった時に急激に増量した。ホテルの部屋で起きた瞬間から、イ ンターネットなんかをしながら、朝から晩までずーっと食べ通し。今より5キロくらい太ってたんじゃないかな」


この体重コントロールに関しては、すごく悲しいエピソードがある、と彼は最後に冗談めかして打ち明けてくれた。

「撮影の前にリハーサルはパリでやったんだけど、その時もうダイエット中だったから、おいしいもの は何も食べられなかった。さあ何でも食えるぞ、という時に僕がいたのはポーランドだった(笑)。ソー セージだけは飽きるほど食べられたけれどね」






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